インタビュアー くりもと きょうこ
総合出版社で編集者として14年間、青年誌・女性誌・男性週刊誌・児童書と脈絡のないキャリアを経たのち、信州に移住して雑食系フリーランス編集者・ライターに。こんなに楽しいならさっさと会社員を辞めればよかったと思う移住5年目。東信エリアの某村に暮らす。
立科町政のトップはどう見ている?
タテシナソンのリアル 町長編~町長がタテシナソンに期待すること
さまざまな立場の「人」を通して、「タテシナソンとは一体どんなイベントなのか?」を明らかにしてきたインタビュー記事の第5弾は、立科町政のトップである両角正芳町長にお話を聞きました。町民の声をすくいあげ、集めた税金をどう使えば町民のためになるのか? を日夜、議会や役場とともに考え実践し続けている町長。タテシナソンの現場から少し離れたところで、見守る立場だからこそ見えているものを伺いました。
現在、立科町長をつとめる両角さんは、立科町の出身です。県立蓼科高等学校を卒業後、昭和47年に都内の出版社に入社しました。時刻表の専門出版社で編集を担当し、各地の公共交通機関へ出向いて取材するのが何より楽しかったのだとか。昭和54年に故郷の立科町に戻り、土地改良区に勤務。平成7年には事務局長に就任します。定年退職後に立科町議会議員に立候補して当選し、平成31年に立科町長となりました。
立科町長 両角 正芳
立科町藤沢(現在立科町滝神在住)出身
長野県立蓼科高等学校 卒業
都内出版社 入社
立科土地改良区 勤務(平成7年6月より事務局長)
農事組合法人 飯島農園 入社
立科町議会議員 当選
立科町長 就任
(公式HPより抜粋)
くりもと:町長は立科町のご出身です。町長が感じている立科町の良さを教えてください。
両角町長:やはりなんといっても豊かな自然でしょう。中でも、蓼科山の裾野から湧き出る水を、町の上水道に使っているというのは他にない特長だと思います。飲用水を湧水でまかなっている地域は他にもありますが、農業用水などもすべて湧水という自治体はなかなかありません。その水を使って育てるりんごや米、畜産への高い評価を考えると、やはり立科町だからこそのアドバンテージがあると感じます。 また、観光地である白樺高原、女神湖などは準高地ならではの魅力があります。総じて、災害が少なくて生活しやすい町と言えます。
くりもと:逆に、ここが立科町の課題だなと感じているところはありますか?
両角町長:他の地方自治体と同じく、人口減少は大きな課題ですね。あとは立地でしょうか。都市部からのアクセスを考えると、少々不利な立地かもしれません。
くりもと:タテシナソンは、毎回課題提供事業者がいます。立科町の事業者を、町としてどのように応援していきたいと考えていますか?
両角町長:第一は、タテシナソンのサポートです。町はデータや状況、課題などの情報を持っています。それを提供していくことで、事業者と学生たちをスムーズにつなぐ役割を果たしていくことが重要だと思っています。タテシナソンは部分的には成果は出ています。今後は、タテシナソン後のアフターケア、出たアイデアを良い方向へサポートしていくことが町の役割ですね。
くりもと:タテシナソンは過去3回開催されています。見聞きして印象に残っていること、感じていることを教えてください。
両角町長:我々大人は、課題解決する時につい一般論で考えてしまうんですよ。でも、学生はそうじゃない。時に奇想天外に映るようなアイデアや、一発逆転ホームランを繰り出す底力があって驚かされます。とにかく発想力が素晴らしいですね。学生たちの真剣さも印象的です。
くりもと:第3回開催時は審査員として参加されました。学生たちのプレゼンを見て、どう思われましたか?
両角町長:テレビドラマと生で観る舞台の違いと言いますか、じかに受け取って肌で感じるものがありました。プレゼンしている学生たちはまるで役者のようで、思わず引き込まれます。とはいえ審査員ですから、学生の熱意に感心はしてもほだされず、厳しく精査して総合的に見なければなりません。もちろん、多少気になるところがあっても全体的によければいいという大局的な見方も必要です。
くりもと:タテシナソンに参加している高校生、大学生たちは、町長の目にはどのように映りましたか?
両角町長:若さと爆発力を感じました。タテシナソンは28時間というタイムリミットがありますが、だからこそより凝縮されるのか、すごいものがあります。審査員だった私も、そのパワーに押し切られそうになるほどでした(笑)。
反面、繊細さを感じる場面もありました。そこが、私などからすると物足りなく感じてしまうところではあります。
くりもと:今後のタテシナソンへの期待や要望があれば、お聞かせください。
両角町長:そうですね、要望のほうが強いかもしれません。やはり税金を使ってやっていることですから、本当に、最終的に、立科町の事業者のためになるのか? という視点は欠かせません。町長という立場としては、議会にきちんと説明ができるかどうかは重要です。納得してもらえるだけの成果が出ているのか、ということも今後は問われていくでしょう。
そのためにも、今後はタテシナソン開催時だけでない関わり方、フォローなどを仕組みとして組み立てていく必要を感じています。期間や回数も今のままでいいのか、検討してみてもいいかもしれません。どうしても資金や立地のハードルはつきまといますから、うまく折り合いをつけながらどう続けていくかという視点ですね。第3回はプロチームも参加しましたが、フォローにプロフェッショナルが入るなども有効ではないかと思っています。
「出版社勤務時代は、地方に取材に行くのがとにかく楽しみで、率先して行っていました。今は新型コロナウイルスのことがあるのでなかなか難しいですが、現場に行きたいという思いは強いです」という町長。タテシナソンというアイデアが順調に育っているのは、現場主義の町長が見守っていることも重要なファクターなのかもしれないと感じました。
イベントとしての目新しさ、面白さについ目を奪われそうになりますが、税金を納めている立科町民のためになっているのかという視点は重要で、そこをゆるがせにしないという強い決意にハッとさせられました。町民の負託を受けてここにいるという意識は、町政を担う立場だからこそのものです。
同時に、町外からやってくる学生たちへのリスペクトも随所ににじみ、今までの課題提供事業者、ガイドのみなさん同様、立科町に暮らす大人の懐の大きさを改めて感じました。
学生たちの本気を受け止め、タテシナソンの成果をどうサポートしてフォローしていくか。タテシナソンにおいて、縁の下の力持ちである町にしかできないことは、まだまだありそうです。