タテシナソン2018
インタビュアー くりもと きょうこ
総合出版社で編集者として14年間、青年誌・女性誌・男性週刊誌・児童書と脈絡のないキャリアを経たのち、信州に移住して雑食系フリーランス編集者・ライターに。こんなに楽しいならさっさと会社員を辞めればよかったと思う移住5年目。東信エリアの某村に暮らす。
■ 事業者のホンネ!?
タテシナソンはおろか立科町のこともほぼ知らないライターが、3人の課題提供事業者のホンネを聞き出すという企画。事業経営という数字にシビアにならざるを得ない“現実”と、タテシナソンの夢あふれる“アイデア”には果たして融合点はあるのか? じっくりお話を伺いました。
■ 前回までのお話
“町”なのに“村(ソン)”とは、これはいかに……からはじまったタテシナソン・ワールドの探索。1回目の課題提供事業者である「牛乳専科もうもう」代表・中野さんインタビューは、想像を超えるお話がどんどん出てきて、常に頷くばかりでした。
事業を25年続けていて、「これは無理」と思い込んでいたことも、学生たちの熱意が突破口を開きました。中野さんは、親子ほども年の離れた大学生・高校生のことを「尊敬しています」とおっしゃっていました。なかなかストレートに言えないセリフをサラッと口にする中野さんが、とても素敵だなぁと感じ入ることしきり。こういう時、「学生さんのお手並み拝見」とつい斜に構えがちなわれわれ大人が居住まいを正したくなるような「タテシナソン」が秘めたパワーを、余すことなく語っていただきました。
さて、お次は第2回で課題を提供していただいた事業者さんへのインタビューに進みます。今回は木材を扱う会社です。木の香りがほんのり漂う作業場で、お話を伺いました。
第2回課題提供事業者「山浦木材建材株式会社」
山浦木材建材株式会社 山浦豊弘 さん
創業:1946年 業態:木材加工・卸業 家族経営 従業員数:1名
くりもと:第2回目の課題提供事業者は、「山浦木材建材株式会社」。現在は、社長のご子息である山浦豊弘さんを中心に、家族で建築用の木材や建材を扱う商いをしています。
山浦さんからの課題は「広大な敷地に眠る大量の木材を利用し、利益を生み出す」。
山浦木材建材株式会社の敷地には、さまざまな木材が積まれています。もちろんいずれも立派な商品で、出番を待っている状態です。“宝の山”であるこの木材たちをどう生かせばいいか、学生たちが頭をひねりました。
Q1.課題を提供して感じたこと
くりもと:――課題提供事業者として手を挙げられた理由をお聞かせください。
山浦:タテシナソンのイベントディレクター渡邉岳志さん(立科町商工会 旧経営支援員)から、「第2回があるんですが」と聞いたのがきっかけです。第1回の様子はケーブルテレビで観て知っていたので、学生が出すアイデアに期待がありました。僕は、この仕事はこういうものと発想が固まってしまっている部分があります。そこを、自由な発想で壊してもらえたらと考えていました。
くりもと:――課題を提供したことで、どんなメリットがありましたか?
山浦:木材を家具にして売るというアイデアは、「新しいことをやってみよう」というきっかけのひとつになりました。うちは家族経営の小さな会社で、放っておくとふだんの仕事だけで手いっぱいになってしまいます。新しいことをはじめたい、はじめたほうがいいと思っていても、なかなかとっかかりを持てなかったんですよね。
くりもと:――学生たちと実際に接してみて感じたことや、影響を受けたなと思うことはありますか?
山浦:学生が一生懸命取り組んでいる姿や、やる気を前面に出している姿が印象に残っていますね。彼ら、彼女らからすると木材店はおそらくふだん接点がない業種だと思うんですが、興味を持ってくれていることが伝わってきました。
在庫リストの作成にしても、学生だからズバッと提言してくれたんじゃないかと思っています。社会人同士だと事情が分かってしまうだけに遠慮してしまうところを、ざっくばらんに話ができたのはよかったです。
影響ということでいえば、もっと経営のことを勉強しないと、と感じたことでしょうか。僕はまだ社長ではないんですが、今後社長になるとしたら、当然経営のことを知っていなければならないし、責任も違ってきます。経営のことをもっと知った上でタテシナソンに臨んでいたら、こちらからももっといろんなことができたんじゃないかという思いもあります。
第1回目の課題提供事業者だった中野さん(「牛乳専科もうもう」代表)からは、「数字のことを質問された」と聞いていたので、その点はプレッシャーを感じていましたね。実際は、僕の時は数字のことを聞いてくるチームはなかったんですが。
くりもと:――タテシナソンを体験して、新しい関係性はできましたか?
山浦:椅子のデザインをしてくれた建築士さんとは、その後も関係が続いていますね。ときどき事務所にフラッと立ち寄って、話をさせてもらっています。
Q2.アイデア事業化の進捗状況
くりもと:――採用されたアイデアはいくつかありますが、現在の進捗状況はいかがですか?
山浦:「届くまでわからない運命の椅子プロジェクト」は、子ども椅子の見本を作ったところで今は止まっています。椅子の次はテーブル、ソファーなど展開して「里山家具」として一式販売して価格を下げようというところまで構想はあるんですが……。
子ども椅子の見本は、建築士さんがデザインしてくれた図面をもとに、大工さんに製作をお願いしました。第一線からは退いている大工さんで、もし今後製作をお願いできるならお互いにメリットがあるんじゃないかなと思って。
1脚作るのに2日間かかったかな。材料費と大工さんの日当、利益などを考えると、子ども用の椅子1脚でけっこういい値段になることが分かりました。
くりもと:――なかなか難しいですね。
そうですね。デザインは比較的シンプルなので、コストダウンのために自分でつくることも考えているんですが、そうなると専用の機械が必要です。今は仕事が忙しいので、手が空いたタイミングでトライしてみようかと思っているところです。
木材の在庫リスト作成も、僕ひとりだとなかなか難しいですね。在庫は数えきれないほどありますし、規格品ではないので形状や大きさもさまざまです。動かすのも一苦労なので、人手がほしいところです。
ホームページの作成やSNSでの発信も、家具販売の目処が立ったり、在庫リストができたりすれば非常に意味がありますが、現状ではコンテンツが最低限しかないのでなかなか手を着けにくい状況です。
くりもと:――採用された以外のアイデアで、気になったものはありましたか?
ベッドがそのまま棺桶になるというアイデアは、他の人の反応も良かったですね。「面白い」と言われました。突拍子もないし、実現するとしても乗り越えなければならないハードルがたくさんあるアイデアではありますが、そういうものも自由に出てくるところが面白いですよね。
Q3.タテシナソンを経験して
くりもと:――立科町の他の事業者さんへのアドバイスや、タテシナソンへのリクエストがあれば教えてください。
山浦:事業者は、学生がアイデアを考える上で参考になるような“数字”を持って参加するほうがいいんじゃないかなと思います。自由な発想でアイデアを出してくれるのはとてもいいんですが、それを受けて実現するのは事業者の役目です。となると、金銭面のことを抜きにはできません。素晴らしいアイデアを現実にうまく落とし込むためにも、数字のことを考える場面があってもいいんじゃないでしょうか。
あと、提供する課題は現実的な直近の経営課題でいいと思います。こういうイベントだと、出す課題もカッコつけたくなるところですが(笑)、小さくても現実的な課題をぶつけたほうがいいと思います。
くりもと:――もしまた参加するとしたら、どんな課題を出したいですか?
山浦:「木材1本を丸ごと活用するとしたら?」ですかね。芯の部分、端、皮まで余すことなく活用して、さらにリサイクルまで視野に入れたアイデアを出してもらえたら、面白そうですよね。今注目されているSDGs(持続可能な開発目標)にも合いそうですし。
くりもと:――最後に、タテシナソンという取り組みについて、感想をお聞かせください。
山浦:アイデア自体も面白かったし、僕自身が「何かしよう」と思えるきっかけになったのがよかったです。回を重ねてよりスケールが大きくなってきたら、またさらに面白くなりそうですよね。タテシナソンは、とても素敵な場所でした。
山浦さんのお話は、数字のこと、経営者としての気構えなど、夢物語に終わらせないキーワードが印象的でした。課題提供事業者は、それぞれに学生の熱意から良い影響を受けているようですね。次回は最終回。昨年の第3回課題提供事業者「マーガレットリフレクパーク」さんにお話を伺います。乞うご期待!
文:くりもと きょうこ