タテシナソンレポート メンター編 ②篠原さん

●もう一人のメンター

岡田基幸氏と共にメンターを務める株式会社つばさ公益社代表の篠原憲文さん。

今回は篠原さんにタテシナソンのメンターとして参加することになった経緯や学生たちに伝えていること、具体的なアドバイスなどを伺いました。

株式会社つばさ公益社 篠原憲文氏

<所属・肩書>

株式会社つばさ公益社 代表取締役/一般社団法人つばさ公益社 代表理事

<経歴>

・メリルリンチ日本証券、eBay Japan、Macromedia(現 Adobe)で勤務後、葬儀会社を創業。11年代表を務め事業売却。

・飲食FCで店舗開発に従事し、2017年長野県で株式会社つばさ公益社を創業。創業5年で6店舗へ拡大。

・信州ベンチャーサミット2019最優秀賞。信州アクセラプログラム2019最優秀賞。経産省WEAP2020事業採択。NEXs Tokyo2021事業採択。OSAP2022事業採択。

・全国中小企業クラウド実践大賞2021全国大会「日本商工会議所会頭賞」受賞。日本DX大賞2022中小規模法人部門 優秀賞受賞など。

[メンターとして参加することになった経緯]

小池:まずは、タテシナソンにメンターとして参加することになった経緯をお聞かせください。

篠原:プレゼンイベントで知り合った立科町役場の職員の方から、是非参加してほしいとお誘いいただいたので参加しました。

[学生たちに対して伝えていること]

小池:学生たちには何を伝えるようにしていますか。

篠原:一番大切なこととして伝えているのは、他の人が納得できるような“スマート回答”をすること。何故その人じゃないとダメなのか(why you)、何故今なのか(why now)、さらに何故その地でないとだめなのかを明確にすることで説得力がグッと上がります。

そのためには事業者の想いを汲み取った問いを立てることが何よりも大切です。問い立てが間違えてしまうと間違った答えしか導き出せず、修正も難しくなります。課題に対する答えよりも、課題自体にもっと目を向けて、本当の課題設定は何なのか?問題発掘に時間をかけて取り組むことが重要です。

小池:正しい問い立てやスマート回答をするうえでどんなことが必要でしょうか。アドバイスをお願いします。

篠原:具体的に5つのポイントを挙げてみました。

1.[事業者の隠された想いを読み取る]

篠原:”問題文をよく読んでほしい”ということです。タテシナソン2023の課題である関農園さんの「ブランディングを成功させるための日本一の称号が欲しい!」で言えば、何故日本一の称号が必要なのか。ここから、ブランディングが必要だということが読み取れれば、その解決策がイコールで課題の回答になるわけです。さらに言えば、今回の課題内容はリンゴをメインにとの話でしたが、実際の売上の8割はお米。この事実はアイデアを事業化するにあたり見過ごせない情報です。

何を質問して、その回答から何を選択するのか。課題提供者から語られる理想のみをベースに考えてしまうと問い立てを間違えてしまうかもしれません。言語化されていないインサイトや、課題提供者が抱える悩みや痛み、事業上の問題などインサイトの深掘りをしないと本当の課題にたどり着けないことを心に留めておく必要があります。

2.[メンターを上手く利用する]

篠原:タテシナソンでは、2人のメンターに相談予約ができる4枚のメンターカードが各チームに配布されます。ほとんどの学生はプレゼンについての相談が多く、2日目にカードを使う傾向にあります。もちろん悪いことではありません。ですが、メンターはプレゼンの方法を相談するだけの人ではありません。メンターカードの使用が遅くなればなるほど、メンターとして言えることが少なくなってしまうのも現状なのです。

1日目の早い段階でメンターカードを使い、自分たちの問い立ては間違った方向に進んでいないかどうか確認することもかなり有効的です。問題の解決には順番があります。メンターとしてより良いアイデアが出せるようアドバイスをします。

3.[質の高いユーザーインタビュー]

篠原:アイデアに説得力を持たせるために必要なのがユーザーインタビューです。それを実際に使用する人や購入する人など、最終消費者まで目を向けてインタビューをすることで、実際に事業化するにあたり何がネックなのかが見えてきます。

4.[キーマンは“ガイド”の存在]

篠原:とはいえ、初めて会った人たちがチームを組みゼロベースから課題に取り組まなければならない学生たち。自分たちの力だけでの課題解決は難しいでしょう。そこでキーマンとなるのが”ガイド”さんの存在です。誰より立科町を知り、資料にはない情報を持ち、学生に一番近いところにいる“ガイド”さんの話をよく聞くことも課題解決の糸口になります。

5.[プレゼンに関して]

篠原:最後にプレゼンについてです。プレゼンは写真や動画を沢山使えば良いというものではありません。もちろん、写真や動画で表現するほうが伝わりやすいこともありますし、インパクトもあります。

ですが一番大切なのは“数字で語る”こと。市場調査をしっかりして裏付けをとり、それをプレゼンに反映できれば説得力が生まれます。15分というプレゼン時間の中でどれほど説得力のある数字を出せるかがポイントです。

小池:ありがとうございました。問題解決への近道は課題そのものにあるのですね。はじめの問い立ての重要性を改めて感じました。

では、篠原さんが学生だったらタテシナソンでの28時間をどう使いますか。

[篠原さんならどうする?]

篠原:そうですね・・・。最初の1時間~数時間は、本当の課題を見つける時間にします。何を問われているのか、色々な人の意図を汲み取る時間ですね。次に事業者インタビューに移ります。先ほども述べたように、時間の使い方が分からなければこのタイミングでメンターカードを使ってメンターに相談するのも有効的だと思います。

取材シーンは素材として写真や動画に収めておくと説得力に繋がるので、些細なことでもカメラに収めるようにします。事業者への質問は、1番困っていることを聞きペインポイントを把握。そのうえで、その後どうなっていたら嬉しいかを聞くと良いと思います。

小池:最後に、タテシナソンに参加してみての感想をお願いします。

篠原:参加いただく学生と一緒になり本気で課題に取り組むのでやはり非常に疲れますね。とはいえ、意欲ある学生と出会える喜びは大きいですし、とても楽しいです。全国から集った学生が立科の魅力に気づき様々な楽しみ方をしてくれるのが嬉しいです。メンターとして学生から生まれるアイデアを尊重しつつ、気づきある伴走になるよう取り組ませていただきました。

大人でも頭を抱える中山間地の課題を、全国の学生と知恵を出し合って一緒に謎解きできるようタテシナソンには今後も盛り上がっていって欲しいと思います。

小池:ありがとうございました。私も今後のタテシナソンがもっともっと盛り上がることを願っています。

取材・文:小池菜月