事業者インタビュー①

ホンネのところPOP

インタビュアー くりもと きょうこ

総合出版社で編集者として14年間、青年誌・女性誌・男性週刊誌・児童書と脈絡のないキャリアを経たのち、信州に移住して雑食系フリーランス編集者・ライターに。こんなに楽しいならさっさと会社員を辞めればよかったと思う移住5年目。東信エリアの某村に暮らす。

第1回課題提供事業者「牛乳専科もうもう」

タテシナソン。


はじめてこの言葉を聞いた時は、「タテシナ……村(ソン)? 立科は“町”なのに“村”とは?」と不思議に思いました。

「アイデア」や「ハック(テクニック、小技の意味)」と「マラソン」を掛け合わせた造語「アイデアソン」「ハッカソン」が近年流行し、社会の課題を解決するためにみんなでアイデアを出し合う共創型イベントとして盛り上がりをみせています。
それを立科町流にカスタマイズしたのが「タテシナソン」というわけです。

とはいえ、まだまだピンとこないという方も多いはず。
「タテシナソンは一体どんなイベントなの?」
「実際のところはどうなのよ?」

というギモンに答えるべく、さまざまな関係者にインタビューすることになりました。

タテシナソンは毎回、ひとつの事業者が課題を出します。そのたったひとつの事業者のために、参加者はさまざまなアイデアを本気で繰り出します。事業者にとっても、またとない機会なのです。

過去3回それぞれの課題提供事業者に、タテシナソンに課題を提供して感じたこと、アイデア事業化の進捗状況などをお話いただきました。

事業者から見たタテシナソンは、果たしてどんな姿だったのでしょうか?タテシナソンに興味のある方、事業者として名乗りをあげたい方は必見です!


nakano

牛乳専科もうもう 代表 中野和哉さん

創業:1969年 業態:観光・サービス業 家族経営 従業員数:4名
牛乳専科もうもうは、2019年に創業50周年を迎えました


くりもと:栄えある第1回目の課題提供事業者は、白樺高原の「牛乳専科もうもう」。蓼科第2牧場のすぐそばにあり、新鮮な牛乳をつかったソフトクリームや土産物を販売しています。木をふんだんにつかったかわいらしい小屋では、代表の中野和哉さんとご家族が働いています。

中野さんが学生たちに出した課題は「どうすれば通年営業できるようになるか」。
冬場は雪に閉ざされお客様もぐっと減ってしまうため、開店以来ずっとお店をクローズしてきました。通年営業が可能になれば、できることが増えて経営はより安定します。その実現のために力を貸してほしいというご依頼でした。


Q1.課題を提供して感じたこと


くりもと:――課題提供事業者として手を挙げられた理由をお聞かせください。

中野:この店をはじめて25年になりますが、前々から冬場も営業できればと考えていました。冬場はお客様が減る上に、除雪費や暖房費などで経費がかさみます。それで自分の中ではやれっこないと思い込んでいたんですが、タテシナソンの話を聞いて、町外や県外の方からイメージを聞かせてもらったらまた違うかなという気持ちが出てきまして。

くりもと:――第1回なので、どういうイベントかイメージがなかなか持てなかったと思いますが。

中野:こんなにすごいイベントとは思っていませんでした。井戸端会議や車座集会の拡大版くらいにしかイメージしていなくて。 当日までの間に、何回もミーティングに参加しました。半分は運営に関すること、半分は店の現状のヒアリングでした。最初なので、どういうイベントにするかというところから関わって欲しいと言われていたので、一緒につくっていく感じでしたね。


くりもと:――当日を迎えられて、学生たちと2日間接してみて感じたことはありますか?

中野:第1回目は、高校生はひとりで、あとは大学生でした。当然ですけど、僕のことも僕の店のことも知らないじゃないですか。予備知識もとっかかりもないことを一生懸命理解しようとしてくれて、その意識の高さに「すごいな」と圧倒されましたね。

1日目は各チームが僕に質問する時間があるんですが、その内容も想像以上で慌てました。というのが、売上や冬場の経費といった“数字”を聞いてきたチームがあったんですよ。そこまで聞かれると思っていなかったんで「あいまいな数字は伝えられないから、明日まで待ってほしい」と答えて、その夜は大変な思いをして資料を揃えました(笑)。

くりもと:――それは慌てますね。

中野:大変だったけど、そこまでつっこんで聞いてくれたことで、かえって勉強になったんですよ。具体的に除雪費や人件費を調べて実際に計算してみると「あれ? 思っていたより経費はかからないな。できるかもしれない」と分かって。


くりもと:――課題を提供したことで、どんなメリットがありましたか?

中野:なんといっても、自分の“引き出し”が増えたことですかね。25年もやっていると、考えが固まってしまうんですよ。学生が出してくれたアイデアのおかげで、柔軟に考えて対応できる力が出てきたと思います。たとえば、以前は牛乳を使わないアイスクリームにはまったく関心がなかったんですが、ある菓子店で牛乳アレルギーでも食べられるアイスクリームを見て、研究してみようかという気持ちになりました。学校の団体さんに乳製品を出すとき、牛乳アレルギーのお子さんにはりんごジュースで代用していたんですが、「自分だけ違う」という思いをさせないで済むようにできるといいですよね。

それから、学生から出たアイデアは受賞したもの以外もすべて持ち帰れるんですね。最初、学生が模造紙に小さなアイデアをたくさん貼り付けていくんですが、僕はそれがすごく気になって。結果的に、そこからアイデアをたくさんいただいて生かすことができています。 過去に自分が考えていたことと同じアイデアも出てきました。それを見て「自分の方向性は間違っていなかった」と背中を押してもらえたような気持ちになりました。
自営業だとひとりで考えなければならないので、アイデアが浮かんでも本当にそれがいいアイデアなのか確信が持ちにくいんですね。そういう意味でも、心強かったです。

くりもと:――タテシナソンを体験して、新しい関係性はできましたか?

中野:それはもう、いろんな方面で新しい関係ができましたね。町内でも、タテシナソンをきっかけに話ができるようになって。うちの店のことも、こんな店があることはみなさん知っているんですが、じゃあ具体的にどういうことをやっているのかまではご存知ないんですよ。そこを認知してもらえたなと感じています。学生たちも、ときどき顔を見せてくれてうれしいですね。


Q2.アイデア事業化の進捗状況


くりもと:――採用されたアイデアはいくつかありますが、現在の進捗状況はいかがですか?

中野:まず、飲むヨーグルトの商品化は実現しました。提案にあった、商品パッケージをすべて牛柄に統一するというのも実現済みです。 お取り寄せ商品事業も進めています。もともとパンはつくっていたので、信州名物の牛乳パンの商品開発をしているところです。相談している業者さんも、牛乳パンで有名なお店を調べてくれるなど気にかけてくれていて。「これぞ!」というものを出したいので、もう少し時間がかかりそうですが。

冬季のイベントは第1回タテシナソン終了して、翌年の2月にやってみたんですよ。
(※第1回のタテシナソンは、2018年2月の開催)

提案では、雪があることを前提にしたかまくらや竹のランタンといったアイデアがあったんですが、今年はいかんせん雪が少なくて。今後も雪はあまり期待できないので、雪がなくてもできる内容にしないといけないなと考えています。これも、実際にやってみたから気づけたことで、失敗したことやいまひとつだったことも今後に生かせそうです。

くりもと:――アイデアの中にはトイレの改修とありますが、店舗のおとなりのトイレは町有のものですね。

そうです。うちのトイレではないので町役場と相談して、2020年度に改修できることになりました。通年営業を見越して、冬場も使えるように改修されます。

通年営業も、この冬からやろうと思っています。新型コロナウイルスでどうなるかまだ分かりませんが……。準備だけはしておきたいので、商工会に補助金を申請して店舗の寒さ対策もしたいと考えています。


Q3.タテシナソンを経験して


くりもと:――タテシナソンを経験されて、立科町の他の事業者さんに伝えられることがあるとしたら?

中野:タテシナソンは、個別の事業所に対して町外・県外の人がアイデアを出すイベントです。アイデアを出すのは主に学生ですが、専門家にお願いするくらいの刺激があります。これだけの数と質のアイデアを出してもらって、しかもそれを独占できる機会はなかなかありません。それだけでも価値があると思いますね。

また、課題を出すのは個別の事業者ですが、今現在の立科町の課題と重なる部分もあって、タテシナソンはそれを町全体で共有できる場にもなっています。立科町は里と山にエリアが分かれていて、お互いの課題や悩みを共有できる場はなかなかありません。僕は里に住みながら山で仕事をしているので、温度差を強く感じるんですね。里と山をつなげられる位置で動きたいと思っていたので、タテシナソンはその意味でもいいなと思います。

あと、第3回からはプロも1チーム参加することになって、これはいい取り組みだなと思いました。即利益を生み出せるようなアイデアが多くて、ちょっとうらやましく感じましたよ(笑)。

くりもと:――最後に、タテシナソンという取り組みについて、感想をお聞かせください。

ぜひ続けてほしいイベントですね。立科町には200近い企業があって、大小関係なく悩みはあるはずです。それを解決できるチャンスになると思います。

学生たちは自分の息子や娘ほどに若い人たちですが、自分には持っていないものを持っていて、心から尊敬しています。本当に、いい刺激になりました。また5年後か10年後か、課題提供事業者として参加したいですね。


親子ほども年の離れた大学生・高校生のことを「尊敬しています」とてらいなく言う中野さんが、とても素敵だなぁと感じ入りました。

どこにでも学びはあるし、誰からでも学べる。そんなことを実感した第1回インタビューでした。

次回の更新では、第2回課題提供事業者「山浦木材建材」さんのインタビュー記事を掲載いたします。どんなお話が聞けるのでしょうか。お楽しみに!

文:くりもと きょうこ