事業者インタビュー③

ホンネのところPOP

インタビュアー くりもと きょうこ

総合出版社で編集者として14年間、青年誌・女性誌・男性週刊誌・児童書と脈絡のないキャリアを経たのち、信州に移住して雑食系フリーランス編集者・ライターに。こんなに楽しいならさっさと会社員を辞めればよかったと思う移住5年目。東信エリアの某村に暮らす。

■ 事業者のホンネ!?


タテシナソンはおろか立科町のこともほぼ知らないライターが、3人の課題提供事業者のホンネを聞き出すという企画。事業経営という数字にシビアにならざるを得ない“現実”と、タテシナソンの夢あふれる“アイデア”には果たして融合点はあるのか? じっくりお話を伺いました。

■前回までのお話


第2回課題提供事業者「山浦木材建材株式会社」山浦豊弘さんは、数字のこと、経営者としての気構えなどを、第1回の中野さんとはまた違った視点で語ってくださいました。

選ばれたアイデアは秀逸ながら、実現するとなるとまたさらに課題が立ち上がってくるのは、手ごわいクエスト攻略といった様相です。とはいえ、学生の熱意から良い影響を受けているのは山浦さんも同じで、「できない」で止まらずに「どうやったら解決できるか」を考え続けている姿が印象的でした。

課題提供事業者へのインタビュー企画は、今回でひとまず最終回。第3回目の課題提供事業者は、女神湖の近くにある総合アクティビティ施設です。すっかりタテシナソンのとりこになったくりもと、広くて気持ちのいい敷地にワクワクしながら足を踏み入れました。

第3回課題提供事業者「マーガレットリフレクパーク」鷹野裕也さん



takano

マーガレットリフレクパーク  鷹野裕也 さん

白樺高原観光事業協同組合
創業:1982年 業態:観光・サービス業 従業員数:10名

くりもと:3回目の課題提供事業者は、「マーガレットリフレクパーク(白樺高原観光事業協同組合)」。運営に携わっているのは、鷹野裕也さんです。第3回は、4つの学生チームに加えてひとつのプロチームが参戦したのが大きな変更点でした。

鷹野さんからの課題は「とにかく売り上げを上げる大作戦」。
広大な土地でさまざまなアクティビティができるマーガレットリフレクパークは、さながら大自然のキャンバス。この場所を活用して、売り上げを上げていくには? 参加者たちの“遊び心”が試されました。


Q1.課題を提供して感じたこと


くりもと:――課題提供事業者として手を挙げられた理由をお聞かせください。

鷹野:実は、タテシナソンは第1回からずっと注目していたんです。というのも、タテシナソンの企画が持ち上がるより前――5年ほど前からでしょうか、学生と一緒にやりたい、学生とのつながりが欲しいという思いをあたためていました。だから、タテシナソンの話を聞いて「これは俺のためにあるような企画だ!」と思って(笑)、手を挙げました。

くりもと:――学生と一緒にやりたいと思っていたのは、なぜですか?

鷹野: 仕事として依頼できるほどの資金が十分にないということもあるんですが、ここはいくつかの大学とつながりがある町ですし、例えばパンフレットのデザインを一緒にやることができれば、お互い楽しみながらプロジェクトのようにできるんじゃないかとイメージしていました。

くりもと:――実際に学生たちと2日間接してみていかがでしたか?

鷹野:とにかく、楽しかったですね! それが一番です。最初は、少し緊張もしていたんです。運営側から「あらゆる質問がたくさん飛んできます」と聞いていたので。実際2日間で、延べ20回くらいヒアリングを受けたんですよ。事業者は1組で、参加者は5チームあるじゃないですか。各チームがミーティングを4回申し込んできたら、僕は20回やることになります(笑)。



くりもと:――なかなかハードですね。

鷹野:ミーティングは1回ごとに制限時間はありますよ。ただ、これだけ集中的に質問されるというのはなかなかない経験なので、大変でしたが貴重だとも感じました。ふだんの生活や仕事は同じサイクルの繰り返しですから、タテシナソンで受ける刺激はものすごく大きくて。

何より、学生の熱意がすごいんですよ。主体的に関わろうとしているのがよく伝わってくるんです。その真剣さを目の当たりにしていると、経営者としての自分の“姿勢”を考えないわけにはいかなくなりました。それは大きな発見でしたね。最初の緊張も、気づけば心地いい緊張感に変わっていました。

くりもと:――密度が濃かったようですが、2日間という時間はちょうどよかったですか?

鷹野:ちょうどいいんじゃないでしょうか。ただ、僕はもうちょっと長くてもよかったです。それまでは、自分は人としゃべるのはそんなに好きじゃないと思っていたんです。それが、学生たちとしゃべっていたらどんどん面白くなってきて。本当に楽しかったですね。


Q2.アイデア事業化の進捗状況


くりもと:――採用されたアイデアの進捗状況はいかがですか?

鷹野:BBQの食材とアクティビティを掛け合わせるアイデアは、昨年10月に試しにやってみました。アーチェリーの得点で食材に差がつくとか、釣り堀で食材調達、場内に隠された食材カード探しなどです。
ゲームバランスやコスト、人手などの課題も見えたし、いろんな意見ももらえたので、それを反映しながら今夏からやりたいと思っていましたが、今は新型コロナウイルス次第ですね。

また、このアイデアから派生した「アーチェリーで風船を割ると景品がもらえる」というアイデアも、11月に学生を集めたイベントで試してみました。長野大学の学生に声をかけて、タダで楽しんでもらう代わりにSNSで拡散してねという条件で実施したんです。これも好評でした。

その他に、一括入場料の導入も考えています。これは以前やっていた時期があったので、実現はそんなに難しくないと思っています。
あとは、「スペースマーケット」という場所貸しも考えていますね。法律の問題が絡んでくるので、どんな風に貸すかというところが課題です。


くりもと:――プロチームのアイデアで、実施の優先順位が高かったホームページはどうですか?

鷹野:ほぼ出来上がっていて、公開されています。あと、新しいパンフレットも出来上がりました。参加者だった長大生の友だちでデザインができる人を紹介してもらって。イベントディレクターの渡邉さんに間に入ってもらったのもあって、スムーズに実現しましたね。


くりもと:――断念したものはありましたか?

鷹野:他に関係者がいるようなアイデアは調整が必須なので、現状では手を着けられていません。たとえばここで成人式をするアイデアは、町と調整しなければなりません。難易度は上がるし、時間もかかりそうです。


Q3.タテシナソンを経験して

くりもと:――立科町の他の事業者さんに伝えられることを教えてください。

鷹野:事業者には厳しく聞こえるかもしれませんが、中途半端な気持ちならば手を挙げないほうがいいかもしれません。というのも、学生たちが超本気なので。こちらにも「本気で変えたい」という気持ちがないと、失礼ですよね。いいアイデアが出てくるかどうかは、まずは自分(事業者)次第、こちらの本気度合いにかかっていると僕は思います。そういう意味で事業者は試されますが、その分得られるものも大きいですよ。

くりもと:――タテシナソンがもっとこうなったらいいのに、という思いはありますか?

鷹野:しいて言うなら、学生たちに対して何ができるか、というところでしょうか。せっかく持てた学生とのつながりは維持したいし、学生たちにとって“帰ってこられる場所”でありたいですよね。そこをサポートしてもらえるとありがたいです。こちらのモチベーションにもなると思うので。

くりもと:――タテシナソンという取り組みについては、どう思われますか?

通常の「アイデアソン」や「ハッカソン」は、アイデアは出るけどそれを実行する仕組みがありません。タテシナソンは、出てきたアイデアに対して課題提供者が実行することが明確に決まっていて、責任がはっきりしているのがいい。これが一事業者ではなく、「立科町を盛り上げたい」みたいなもっと大きな課題設定にしていたら、アイデアも抽象的になってしまうだろうし、実行する人もはっきりしなくなりますよね。そういう意味でも絶妙だと思いますね。

あとは、プレゼンテーションで発表されたアイデアだけでなく、2日間で出たすべてのアイデアを持ち帰れるのもよかったです。ミーティングで話している最中にもどんどんアイデアが出てきて、最終的にアイデアをたくさんもらえました。

僕自身は、何らかのかたちでずっとタテシナソンに関わりたいです。アンバサダーになってもいいくらい(笑)。学生たちには、ここを使って稼いでほしいんですよ。もちろん他の事業者とも協力したいです。そのためにここマーガレットリフレクパークをうまく使ってほしいです。その広がりが、楽しくてワクワクしますよね。


今回の取材で、タテシナソンのインパクトが想像以上に深く、遠くまで届いていることに驚きました。
参加する学生もさることながら、事業者に与える“刺激”はとても大きいものがあります。それも、その時限りの刺激ではなく、その後の行動や思考に変化をもたらすような深い刺激というところがミソです。

新しいことを考えて実行するのは、なかなか大変なことです。
特に事業となると、おいそれと手が出せないと感じている方も多いのではないでしょうか。
タテシナソンは、耳目を集める華やかなアイデアを得られるだけでなく、小さなアイデアをスモールステップで積み重ねて得られる手ごたえ、ワクワクする気持ち――こどものような気持ちを取り戻せることが、実はいちばんの“果実”なのではないかと感じました。

タテシナソンを経験した事業者が立科町内に増えていけば、町全体に波及する好循環が生まれるのではないか――そんな楽しい予感がします。

文:くりもと きょうこ